タンパク質やペプチドなどのナノスケールの生体関連分子を水中で効率的かつ選択的に認識した系はこれまでほとんど報告例がなく、配列特異的な認識は非常に重要なテーマである。しかしながら、水中では相補的水素結合などの相互作用は弱く、新たな高い親和性をもつ人工系が必要である。本研究では、アミノ酸残基と相互作用する金属錯体を用いることにより、新規なタンパク質レセプターの開発を目指した。 パラジウム・エチレンジアミン(Pd(en))をレセプターとすることにより、ヒスチジンに対する人工レセプターの合成を行った。さらに、このパラジウム錯体を複核化することによる親和性の向上を目指した。 熱滴定の結果から、Pd(en)はヒスチジンを複数有するペプチド配列に対して会合定数10^6〜10^7Mほどの結合定数を有していることが分かった。さらに、ラベル化した配列を用いた蛍光測定からも、ほぼ同程度の結合定数が確認された。 ヒスチジンを1つしか持たないペプチドに対しては近傍にヒスチジンを2つ有するペプチドよりも親和性は小さく、Pd(en)が複数のヒスチジンに対して配位結合していることが明らかとなった。また、この配位結合は、アミンの存在により阻害されることも判明した。 さらに、ピレンを修飾したPd(en)はオリゴヒスチジンに対して蛍光応答を示し、ヒスチジンタグタンパクの認識が可能であることが分かった。本系は、ヒスタグタンパク質の蛍光センシングや分離材料への応用など、様々な応用が期待できる。
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