本研究は、乳児が映像つまり2次元の情報媒体で示された情報をどのように認知しているのか、そして映像を外界の事物とどのようにして関係付け表象しているのかを明らかにすることを目指すものである。本年度は、乳児がテレビに映し出された事物を「今そこにある現実のもの」と認知しているのか、それとも「現実とは異なる何か」と認知しているのかを、一連の実験により検討した。 <探索課題を用いた実験(1)(2)> テレビ画面の片端からおもちゃの車を転がし反対側の端から消えるという事象を提示し、乳児がテレビの脇に設けられたスクリーンの裏に実物のおもちゃがあると予想しているかどうかを見た。被験児は10〜14ヶ月の一人での移動(はいはいや一人歩きなど)に熟達している乳児を対象とし、スクリーンの裏に車を探しに行くかどうかという探索行動を指標とした。またテレビではなく実際に本物のおもちゃの車を転がす条件も行い、テレビ提示の時との探索行動の頻度を比較した。その結果、乳児は本物のおもちゃの車が転がって目の前から消えた時にはあるはずの場所(スクリーン裏)を探索しに行くが、テレビの中で車が転がった時には目の前から消えても探索しないことが分かった。 <期待背反法を用いた実験> 探索課題を用いた実験では、まだ自由に自分で移動のできない被験児の認識を検討することができない。そこで、上記の課題を探索行動ではなく期待背反法による注視時間を指標とした課題にアレンジし、10ヶ月児に行った。その結果、10ヶ月児は実物の車はスクリーンに隠れたと予期するが、テレビで提示された車はスクリーンの裏にあるわけではないと予期していることが示された。 以上の一連の実験結果から、少なくとも10ヶ月以上の乳児は、テレビで起こった出来事と実際の出来事との区別をしており、テレビの中の出来事は今実際そこで起こっているのではないことを理解していることが示唆された。
|