1980年代後半以降の現代美術の芸術生産において、活動領域の世界的な拡大と価値規範の多様化が観察されるが、本研究はこの現象について、(1)「アジア現代美術」の芸術生産の様態、(2)フランスにおける公共政策、(3)日本における公共政策、の三つの研究軸から考察することを目指している。 その一環として、2002年春、福岡アジア美術館で開催された「福岡トリエンナーレ」展の現場において、作家、媒介者、観衆への参与観察を行った。そしてこれ以後、同美術館で資料・聞き取り調査を行い、それらを踏まえて、論文「美術館がアジアと出会うとき」としてまとめた。また、「アジア現代美術」現象の前史として1970年代の日本における芸術生産の様態に着目し、資料調査と関係者への聞き取りを進めた。これに関連して、「アジア」に対する関心の萌芽において公共政策が果たした役割に焦点を当て、その時代的推移について別稿のなかで検討した(「『日本的グローバリズム』のアジア的契機」)。これらの過程において収集した資料は、今後のデータ活用のために整理を行っている。 一方、1980年代後半以降の現代美術の展開に対して一定の影響力を有しているフランスの現代美術の動向やそれに対する芸術文化政策について、基本文献を収集するとともに、パリ第一大学においてその資料状況や方法論に関する調査研究を行った。それら先行研究に見られる様々な研究視角は、今日の日本における芸術文化政策と関連領域の研究と、今後の展望に対して意味を持つものであると考えられる。
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