1980年代後半以降の現代美術の芸術生産において、活動領域の世界的拡大と価値規範の多様化が観察されるが、本研究はこの現象について、(1)「アジア現代美術」の芸術生産の様態、(2)フランスにおける公共政策、(3)日本における公共政策、の三つの研究軸から考察することを目指している。本年度はそのとりまとめとして、共著の刊行、学会報告、論説・翻訳文の発表を行った。 まず上記(1)について、本研究で行ってきた福岡アジア美術館でのフィールドワークに基づき「美術館がアジアと出会うとき」(戦後日本国際文化交流研究会の論集『戦後日本の国際文化交流』所収)を上梓し、「アジア現代美術」を社会学的に考察するための視座を得た。特にこの「アジア現代美術」という美的カテゴリーが欧米で展開する多文化主義の議論を踏まえた言説空間のもとに出現した点に着目し、その論理的構成を整理した内容を日本社会学会年次大会で発表した。 また(2)に関して、フランスで行ってきた調査研究を踏まえ、「1990年代の現代美術論争」を上梓したが、さらにこれを戦後フランスにおける美術と国家という枠組に位置づける論考を日本国際文化学会全国大会で報告した。社会文化史の重鎮P・オリー氏の来日講演に際しては、通訳と講演原稿の訳出に関わり、日本では十分に知られていないフランスの文化政策研究の紹介にも携わった。また「『文化』は戦略化する」では、フランスとヨーロッパにおける近年の対外文化政策の動向を論説した。(3)については、前述の戦後日本国際文化交流研究会論集に、「『日本的グローバリズム』のアジア的契機」のほか、史的概説と関連年表を共同研究の成果をまとめた。 以上を通して、芸術生産が社会経済生活に関わる価値や規範の問題として国家と国家間政治の次元において争点化し、国際社会における集合的同一性の問題として出現している様相を具体的に解明することができた。
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