福祉社会を支えるボランティアやNPOなどの市民活動のメカニズムと社会的意義を、実証的-理論的に考察するという研究目的ために、今年度は、以下の4点を行った。第1に、震災後に被災地神戸で、活動を継続している市民活動団体(約10団体)に対する聞き取り調査及び資料文集から、災害対応の活動-平常時対応の活動という軸と、対ヒトと対コトという軸によって、市民活動団体を類型化し、その特徴を分析した。これによって多くの団体が制度の枠外に置かれた多様なニーズを発見し、それを行政に依存したり、慈善で解決するのではなく、市民の間の「支えあい」によって解決する新たな「しくみづくり」に取り組んでいることを明らかにした。第2に、これらの市民活動団体の展開から、ボランティアが奉仕や慈善といった活動の限界を乗り越え、被災者と相互的な関係を取り結びながら、「ボランタリー事業」に取り組む過程を分析した。そして弱者の多様な能力を引き出すボランタリー事業が、社会から孤立する弱者の「帰属」「存在意義」といったニーズを充足し、精神的な「拠り所」を創出していることを明らかにした。第3に、市民活動が行う非営利事業の実態をふまえた上で、そこにみられる人間の尊厳や存在に関わる「働き」を「サブシステンス」という視点から理論化した。市民活動が行うボランタリー事業は、弱者の多様な「働き」に社会的評価を与えるものであり、これによって彼らが人間としての自尊心を回復し、生きる力を獲得していくという「自立」を実現していくこと、またこれは「強さ」に基づく市場経済の枠内に、「弱さ」を抱えた人々が参加できる「ミクロな市場」を形成する動きであることを問題提起した。第4に、全国のNPOセンターを見学することで、市民活動に対する支援策やそれが発展するための制度的基盤についての情報・知識を得た。そしてこれらの研究に対する外部評価を受けるために、専門家からコメントをもらい、その成果を3本の論文として結実させた。
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