研究課題「福祉社会を支える市民活動団体による新たな<公共圏>の創出-非営利事業の国際比較-」というテーマを遂行するために、今年度は、以下の4点を行った。 第1点は、被災地神戸におけるヒアリング調査を継続することで、「生」に関わる市民活動団体・市民運動の活動展開と地域コミュニティにおいて果たす福祉的役割について考察した。とりわけ運動のミッションを遂行するために、行政から事業受託し、活動資源を獲得しながら、弱者の自立支援を実現する市民活動団体の戦略を明らかにした。そしてその過程で、市民活動団体が地縁団体との役割分担をめぐる「せめぎあい」や行政の下請け圧力にさらされ、非常に困難に直面している内実を考察した。 第2点は、日本におけるボランタリズムの展開過程を歴史的ダイナミズムの中で明らかにした。これにより、日本の市民運動のメルクマールとなった阪神・淡路大震災の位置づけを考察し、震災後のボランティア活動が既存の運動論に対して、苦しみを受ける身体という「身体性」と「生」の個別性の尊重という思想的インパクトをもたらすことを明らかにした。 第3点として、1990年代以降に広がりつつある「生」に関わる市民運動を、親密圏と公共圏の理論的課題として捉え、ハバーマスやアレントの公共性議論を批判的に踏まえながら、新たな「公共圏」の可能性について問題提起解した。 第4点は、市民活動の先進的な欧米のNPO、社会的企業、アソシエーションの成立基盤や法的背景を文献研究によって国際比較すると同時に、高齢者・障害者・マイノリティの自立支援に取り組む市民活動団体の予備的調査を実施した。非営利活動に関わる専門家、ボランティアにヒアリングすることで、日本の非営利事業が発展する社会的基盤と条件を検討することを目指している。 そしてこれらの研究に対する外部評価を受けるために、専門家からコメントをもらい、その成果を学会報告や論文として結実させた。
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