研究概要 |
(1)近年、ノロウイルス(旧称ノーウォーク様ウイルス)と血液型との関連が示唆されている。そこで、日本全国でアンケート調査を行い、これらの関連を調査した。生牡蠣摂食後に食中毒を経験した174人についてデータを血液型、年齢、および性別について解析したところ、AB型が胃腸炎にかかりやすく、B型はかかりにくいことがわかった(A型とO型については有意差は認められなかった)。年齢、性別に関しては目立った特徴は見られなかった。本解析は、少なくとも「血液型」という一つの遺伝的要因が生牡蠣の摂食による食中毒のかかりやすさに関連していることを示唆している。 (2)ノロウイルスの結合分子を同定する途上で、我々はヒストンH1を阻害物質として見つけた。そこで、さらに対象を拡張し、ヘルペスウイルス(HSV-1)のHF株、KOS株、そしてアデノウイルス(Ad2,Ad5)についてその感染阻害効果を調べた。その結果、HSV-1に対しては細胞表面分子をブロックすることで感染を阻害し、Ad2,Ad5に対してはウイルス粒子に直接作用することで感染を阻害していた。特に、HSV-1(HF株)では、細胞表面のヘパラン硫酸を除去しても感染効率やヒストンによる阻害効果に変化が見られないため、HF株は従来HSV-1の受容体として知られるヘパラン硫酸とは異なる分子を受容体として利用しており、それはヒストンでブロック可能な分子であることが示された。 (3)大腸菌の系を用いて細胞内でのRNAとタンパク質発現の解析を行った。その結果、いくつかの分子についてはmRNAの増加や減少が必ずしもタンパク質量の増加と減少に繋がっていないことが示された。この結果から、Global Analysisを行う際には遺伝子の「発現」「翻訳」「機能」というステージを分離して注意深く観察する必要性が示唆された。この実験技術をより高等なヒト由来の腸管細胞に応用することで、ノーウォークウイルスの感染・増殖に必須とされるヒト腸管細胞の構成分子を同定できるものと期待される。
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