明恵の和歌の多くは高弟高信が編集した『明恵上人歌集』(以下、『歌集』)によって知られ、『歌集』前半には明恵自撰の『遣心和歌集』が収められる。その『遣心集』に関して、所収歌の分析と「遣心」の意味の検討によって、明恵の撰集志向が、その題に示されるごとく「遣心」、つまり「心遣り」であることを明らかにした。『遣心集』には俗語や口語を用いた自由な掛詞や心のままに詠みなした体の歌が散見するが、そこから読み取れる「遣心」としての詠歌傾向と、『却廃忘記』の発言に窺われる心のままに詠む明恵の姿勢は通じ合っている。また明恵の詠歌と思想との関わりについて、明恵が晩年重視した修法である五秘密法や講義で幾度も言及した二空の理を詠んだ歌等、『明恵上人歌集』中に見える釈教的な歌の存在に着目し、その具体的な様相と関係を浮き彫りにした。晩年の明恵は弟子への講義の中で、菩薩として衆生を導き解脱を得させるために詠歌するという発言をしているが、そのような発言と『歌集』に見える釈教的な詠歌は繋がっており、それらが明恵晩年の詠歌姿勢であると分かった。明恵が菩薩として詠歌した歌を共有した場、明恵における詠歌傾向の変化や和歌観の特質についても検討を行った。これらの成果は日本文学協会第二三回研究発表大会(平成一五年七月六日、於龍谷大学大宮学舎)において「明恵の和歌と和歌観-五秘密・二空の歌を中心に-」の題で口頭発表し、その一部を「明恵『遣心和歌集』の撰集志向-「安立」「遣心」再検討-」(『日本文学』二〇〇四年六月号掲載予定)にまとめた。
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