従来明恵の作歌法の根本とされてきた「安立」「心ゆく」を、明恵の著作類を辿りなおすことで再検討し、「安立」が言葉に表す意、「心ゆく」及び「遣心」が心を慰める意であることを明らかにした。さらに『遣心和歌集』所収歌の分析によって、その撰集の志向が「遣心(心遣り)」であることを見出した。(「明恵『遣心和歌集』の撰集志向-「安立」「遣心」再検討-」『日本文学』(日本文学協会)、平成16年6月号、1〜10頁)。 明恵の講義聞書『解脱門義聴集記』には、菩薩として衆生を導いて解脱させるために詠歌するという明恵の発言があり、それを裏付けるごとく、『明恵上人歌集』には、明恵の重んじた思想や経典に関わる歌が存在する。五秘密・人法二空など思想に関わる歌を分析し、明恵の思想と詠歌の関係を、はじめて実証的に掘り起こした。(「明恵の和歌と思想-「深位ノ菩薩」としての詠歌-」『国語と国文学』(東京大学国語国文学会)、平成16年10月号、29〜43頁)。 尼寺善妙寺の尼僧たちと明恵との関わりを、明恵自筆書状や講義録等の聞書を丹念に読み込むことで浮き彫りにした。またその過程で、明恵が制作に関わったとされる絵巻『華厳縁起(華厳宗祖師絵伝)』の詞書と講義録『解脱門義聴集記』に見える明恵の発言との一致をはじめて指摘し、その他、聞書類に見える明恵の女性観を示す発言を新たに紹介した。(「明恵と尼僧たち」奥田勲編『日本文学 女性へのまなざし』所収、風間書房、平成16年、76〜98頁)。
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