特別研究員に採用されて二年目の今年度は、諸学会誌での研究発表を通じて議論の焦点を明確にすることに努めた。まずカナダの哲学雑誌『Horizons philosophiques』(四月発行)には、ヘルダーの民謡概念についての考察(昨年度に英語で口頭発表)を新たにフランス語で加筆修正して掲載した。ヘルダーの民謡概念に潜んでいた政治性、イデオロギー性に関してはいま世界中で再考が進められているが、近代日本の音楽運動に大きな影響を与えた点でも本論にとって重要な主題である。この論文を通じてフランス語圏の研究者と問題意識を共有できたことで、私の研究の妥当性が国際的な見地からも確認された。また日本シェリング協会の機関誌『シェリング年報』(七月発行)に掲載した論文ではヘルダー、ホフマン、ヴァーグナーの音楽論のなかで「ドイツ的なもの」がいかに表象されているかを比較検討した。彼らはドイツ音楽を「普遍性」の名において価値付け、擁護したが、この観念はそのままドイツ音楽を受け入れた側(日本を含めて)の音楽美学のなかに継承されている。日本人にとって西洋音楽が果たして「自文化」なのか「異文化」なのかという本論の主題にとって、西洋音楽の本場であるドイツで音楽がどのような文化として理解されてきたかについては考察は必須である。またこの問題に答えるための一つの手がかりとして、国立音楽大学編『研究紀要』にドイツの国民的音楽文化(オペラ)の成立過程に関する論考を執筆しており、この三月に刊行予定である。
|