研究課題
特別研究員として三年目となる今年度は、前年度までの基礎的調査を総括し、学術雑誌や学会の場で発表することに力を注いだ。まず、明治・大正期の日本の民謡運動にも大きな影響を与えたドイツの哲学者ヘルダーの民謡概念について、初年度(2002年)に国際学会で英語で口頭発表した原稿に大きく加筆修正するかたちで、日本音楽学会編『音楽学とグローバリゼーション』(2004年11月)に発表した。また、東洋音楽学会で2004年4月に行われた「音楽における日本主義」に関連する口頭発表に対して、独自の視点からコメントを執筆し、公表した(東洋音楽学会『東日本支部だより』第5号、2004年5月)。これまで三年間の研究のなかで、近代日本の音楽文化の西洋偏重を象徴するものとして《音楽の国ドイツ》という観念の存在が浮上してきた。音楽における「ローカルなもの」の抑圧は、なにも日本に限られた現象ではなく、イギリスやフランス、アメリカでも、ドイツ音楽を規範として受け入れた時点で同じような問題が生じていたことが明らかになった。すなわち「異文化」としての西洋芸術音楽の意味と価値を問い直し、音楽における「ローカルなもの」と「ユニヴァーサルなもの」の緊張関係を考察しようとする本研究は、日本だけを対象とした研究には収まらず、ヨーロッパやアジア諸国の近代化の過程を視野に入れた比較文明論的研究に発展せざるを得なかった。こうした見地から、今年度には《音楽の国ドイツ》の表象についての思想史的考察を行った。この研究はすでにまとめ上げられており、近日中に単行本として公刊される予定である。またその骨子をフランス語に訳したものが『Horizons philosophiques』誌の次号に掲載予定(現在投稿中)である。
すべて 2005 2004
すべて 雑誌論文 (2件)
Horizons philosophiques Vol.15, no.2(印刷中)
音楽学とグローバリゼーション(日本音楽学会編)
ページ: 215-218