年度当初は当研究施設において事象関連機能的MRIによる実験を可能にするべく、本研究費の援助を得て、実験装置の作成および実験環境の整備等をおこなった。本研究課題の遂行に流用可能な当研究施設の設備も利用した。 本実験を始めるにあたって予備実験として実験装置の十分な検討を行った。特にMR装置からの信号をトリガとして取り込み、それに同期させてコンピュータから刺激を提示するプログラムの作成および被験者からの反応をコンピュータに記録として取り込める環境の構築を優先的に進め、試行錯誤的にその実験環境の評価を行った。現在でも改良を重ねてさらに信頼のおける実験環境の構築に努めている。 視覚刺激の予備実験として、健常者を対象とした左右片視野への刺激提示に対する音読の実験を試みた。また聴覚刺激の予備実験としては、書き取りと復唱を課題とした実験を実施した。現段階においても視覚刺激、聴覚刺激とも十分な精度で提示可能であることを確認した。実験環境の整備と同時に、実験刺激の選定、実験課題の精緻化、MR撮像の最適化、統計解析法の吟味なども並行しておこなっている。 左右片視野における音読の実験では、左視野提示における音読と右視野提示における音読とでは脳内の血流活動が異なる可能性が示唆された。今後はより精緻な実験パラダイムにより、左右大脳半球における音読の脳内メカニズムおよび文字の視覚的言語処理の差異を検討する。この音読実験の結果の一部は、日本認知神経科学会、日本神経科学会、日本臨床神経生理学会等で発表した。また以前より取り組んでいた書き取りと音読の実験は国際ヒト脳機能マッピング学会において発表した。書き取りと復唱を課題とした実験は現在データをまとめている最中である。新しい取り組みとして、本研究費で購入した心理実験用ソフトウェアE-Primeの機能を生かし、刺激に対するフィードバックを与えるという実験を試みている。
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