研究概要 |
本研究は,前近代イラン・イスラーム社会における知的エリート層,書記官僚の専門的知識・思想・文化について,彼らの専門技術の教科書である「書記術手引書」という文献群の多角的な分析を通し,明らかにしようとする試みである。今年度の研究実績は,以下の通りである。 1,研究・書記術手引書編纂の制度的・文化的背景の分析:書記術手引書という文献はなぜ,どのようにして編纂されたのか。14世紀に編纂された有名な書記術手引書『書記典範』を事例に,書記術手引書編纂の背景にある伝統的なエリートの知識観と現実の行政技術の関わりを分析し,その成果を研究論文として発表した。 2,史料調査・ペルシア語書記術手引書の写本調査:ペルシア語書記術手引書は未調査・未発掘のものも多く,史料群としての全貌が未だ明らかになっていない。このため,イランの主要な写本所蔵館にて,14-15世紀を中心とする書記術手引書の写本を約20点調査し,ペルシア語書記術手引書の文献学的情報を蓄積した。 3,研究・書記術手引書写本群の分析:書記術手引書は知的エリート達の間でどのように読まれていたのか,という問題設定にもとづき,14世紀の書記術手引書と関連作品を収録する集成写本16点を調査し,文献メディアの中での書記術手引書の位置づけ,および書記術手引書を通した技術習得のあり方の分析を試みた。その成果は日本オリエント学会年次大会(平成14年10月,於東北大学)にて発表した。
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