前年度から推進している本研究の基本資料、ペルシア語書記術手引書の写本収集・整理・分析を引き続き推進した。すなわち、イランの諸写本所蔵機関での調査に加え、海外からの写本マイクロフィルム取り寄せにより、本研究が対象とする14世紀末までの書記術手引書史料を本年度でほぼ入手し終わることができた。 この史料整理・分析と平行し、その研究成果を研究発表(2回)、学術論文(1点)を通し中間報告した。イスラーム協会シンポジウム「イランの基層文化とイスラーム」(平成15年4月26日 於立教大学)に報告「「筆の人」の伝統:書記・文人・タージーク」では、前近代イラン・中央アジア・インドにおけるペルシア語文章語の影響力と、「書記官僚文化」の発達の関わりについて分析した。イスラーム写本・文書研究会報告「モンゴル時代の書簡作品:写本による分析」(平成15年7月 於東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)では、モンゴル時代(13-14世紀)の有力官僚一族の書簡集が書記術・知的書簡術のモデルとして広く流布していた様子を14-15世紀書簡集写本から明らかにし、知的エリートの「書簡を読む」「書き写す」という営為がどのように営まれていたのかを多方面から分析するとともに、書簡集を含む書記術手引書史料を文化史研究にどのように活用しうるかという手法を示すことを試みた。また、13-14世紀に編纂された指南マニュアル形式の書記術手引書史料の分析の結果を、研究ノート「モンゴル時代のインシャー術指南書」(「オリエント』46:2掲載予定)にまとめた。
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