3年に亘り行ってきたイラン・イスラーム史研究の未開拓史料、ペルシア語書記術指南書文献の情報蒐集と、当文献の分析による前近代イラン・イスラーム社会の官僚エリートの専門的知識・思想の諸相の研究は、ほぼ目的の情報蒐集および分析研究を達成することができた。研究実施状況は、以下の通りである。 1、ペルシア語書記術手引書写本書誌情報の整理と最終調査 (1)12-15世紀ペルシア語書記術手引書文献とその写本の書誌情報整理 平成14-15年度に行った現地調査に基づき、ペルシア語による官僚技術・文書作成術が発達・完成する15世紀までのペルシア語書記術手引書文献の書誌情報と写本現存状況について、詳細情報を整理した。 (2)最終的写本調査 加えて、イギリスへ海外調査に赴き、ロンドンBritish Libraryを中心に最終的な追加史料調査を行った。未調査だった一部重要手引書写本の調査を行ったほか、15世紀までの手引書文献比較すべく、16-18世紀イラン・インド成立の手引書の様式・叙述に関する情報蒐集を行った。 2、書記術手引書の分析によるペルシア語圏の伝統的官僚技術・文書作成術の研究 これら書記術手引書文献を活用し、書記官僚が担った伝統的ペルシア語官僚技術・文書作成術とその社会史・文化史的意義について、以下のテーマで研究を行った。 (1)13世紀までのペルシア語書簡・文書作成術の発達と、書簡儀礼にこめられた理念 (2)ペルシア語文書作成術における身分の作法とイスラーム的社会秩序のかかわり (3)13-14世紀モンゴル支配によるペルシア語文書作成術の変容とその諸要因 これらの成果を年度内に論文化・発表するところまでは到らなかったが、当年度科研費研究による成果として今後発表してゆく予定である。
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