「近世武家社会の儀礼と交際」という課題のもとに研究を進め、いくつかの論文を発表した。将軍・大名の日常生活・意識を解明すること、大名間の交際を解明すること、そして将軍・大名の行動規範を解明することが目的であり、これらの考察を通して、儀礼と交際という視点から、近世社会像をより豊かに構築していくことを目指した。 本年は贈答と食事を中心とした分析を進めた。鷹贈答とともに、特産品の贈答、特に、食材・料理に注目した。幕末の彦根藩主井伊直憲に焦点をあて、贈答を通じての大名間の交際を明らかにした。彦根城博物館所蔵の井伊家文書から、従来あまり扱われてこなかった献立史料を使用し、幕末京都における大名の食生活を、当時の政治社会状況との関連で考察。また、大名の交際関係については、贈答品選択に先例を重視しており、地域の名産品・極上品を多用していたことを解明。食文化史の研究自体がこれからの分野ということもあり、意義ある研究と考える。 さらに、近世武家のシンボル・象徴の一つと考えられる武具についても検討を行った。特に、将軍吉宗の行動に着目したところ、吉宗が全国に所在する古来からの武具に関心を持ち、それを江戸城で上覧し、かつ写を作成するなど、幅広い活動を見ることができた。具体的には、八王子下原刀と青梅御嶽神社大鎧を事例として「多摩」地域と将軍の関係を指摘したことと、諸大名・旗本家代々の所蔵什物を吉宗が上覧したことが記録化されており、文化的価値が高まったことを明らかにした。
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