今年度は、以下の研究を行った。 (1)意味解析の前提となる数理的枠組の研究 自然言語の意味解析を実現するニューラルネットワークモデルの研究のために、前提となる数理的枠組についての研究を行った。人間の持つ意味をそのままモデル設計の要素として与えることは非常に困難であり、計算機が自ら何らかの意味を獲得する枠組が必要であるとの考えから、強化学習の方式が適しているという結論を得た。また、言語の持つ階層的構造やシンボル化能力は人間が言語を扱うように進化する以前のレベルでも必要とされることを指摘し、強化学習の枠組でのこれら抽象化方式の研究が必要となることを主張した。本件については、脳と心のメカニズムワークショップ(北海道虻田郡留寿都村)においてポスター発表を行った。 (2)時間的発火相関ニューラルネットワークによる言語処理の研究 言語を扱うニューラルネットワークのアーキテクチャとして時間的発火相関モデルを利用した単純なネットワークについて研究を行った。意味のコーディングをパルスの時間的発火同期で与えるという仮定をおくと、言語処理は逐次的情報列(シンボル列)から時間的発火同期(意味表現)への変換として考えられる。その変換の際に必要となる、意味表現の安定性を維持するための機構(位相調停機構)を、位相発振するニューロンを利用することで構成した。本件については、日本神経回路学会(鳥取市)において口頭発表を行った。 (3)シミュレーション技術の研究 時間的発火相関などの高い時間精度が必要なシミュレーションで必要となる、イベント離散式のニューラルネットワークシミュレータについての研究を行った。複雑な発展をもつニューロンモデルでイベント離散式シミュレーションを行うためには、発火の可能性がある時点を予測して事前にイベント登録しておく必要がある。ここでは、関数の時間発展を線形包域(linear envelope)として囲い込むことで、ニュートン法による発火時点の解析解を確実に求める二次漸進分割法についての研究を行った。本件については、専門誌Neural Computing and Applicationに採択が決定されている。
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