今年度は、前年に引き続き、以下の研究を行った。 (1)意味獲得の数理的枠組の研究 前年に得た結論である強化学習による意味獲得の枠組みについて引き続き研究を行った。計算機が意味を獲得する場合、他者と意味が共有できなければ言語処理に利用できる形にはならない。こうした意味の共有の基礎となるコミュニケーションを相互の内部状態推定と捉え、ダイナミクス推定の拡張としての数理的構造について研究した。その結果、相互の内部状態推定のためには推定次元の問題と観測から主観的情報への変換の問題があることを見いだし、その解決策として自己観測原理(自己の観測を利用して他者の状態の推定を構築すること)を提案した。本件成果については、テクニカルレポートにて成果を公開した。また、国際学会2^<nd> Internal Symposium on Emergent Mechanism of Communication in the Brainにて発表を行った。 (2)時空間発火パターンのネットワーク中での発現パターンの研究 言語の意味や他者といった複雑な構造化情報の脳内表現における時間的発火相関モデルの有用性については前年の研究で明らかになったので、時間的発火相関のような時空間発火パターンが神経回路網上でどのように実現されるかについて、シミュレーションを用いて研究した。前年の研究で開発したシミュレーション技術を用いて、外部刺激に応答する回路網に脳内で見つかっている時間依存神経可塑性(Synaptic Time-Dependent Plasticity)を導入したときに、自己組織化が起こり入力に対応する構造が発生することを確かめた。本件成果に関しては、脳と心のメカニズム第4回夏のワークショップにて発表した。
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