水素結合は、DNA塩基対認識において重要な役割を担っている。ワトソン-クリック型塩基対を化学的に修飾することによって、生化学や物質科学分野における新しい機能性分子の構築が期待できる。近年、多くの非天然型DNAヌクレオシドが合成されているが、それらのほとんどが天然型塩基対の水素結合パターンを修飾したものである。本研究では、DNA塩基自体を金属配位子に変換することによって、水素結合を金属配位結合に置き換え、DNA二本鎖形成における新しい結合様式を創り出すことを目指した。 2-アミノフェノール型人工ヌクレオシドを合成し、人工ヌクレオシドと、Pd^<2+>、Zn^<2+>、Cd^<2+>との2:1錯体形成を^1H NMR測定及びESI-TOFマススペクトル測定により明らかにした。これらの錯体は天然型塩基対に代わる新しい金属錯体型塩基対を提供するものである。この人工ヌクレオシドを、フォスフォロアミダイト固相合成法を用いてオリゴヌクレオチドに導入し、DNA二本鎖形成における金属イオンの効果を融解実験などにより明らかにした。 次に、核酸塩基と重原子クラスターをリンカーを介して結合した人工核酸塩基分子を新規に合成し、DNAと核酸塩基部位との相補的水素結合認識と、重原子クラスターの高分解能位相差電子顕微鏡観察を組み合わせることによる、DNA塩基配列の視覚的決定について検討した。炭素膜上の一本鎖DNAに、アデニン型クラスター分子のクロロホルム溶液を加え、電子顕微鏡により観察したところ、クラスター分子が一本鎖DNAと相互作用している結果が得られた。また、一個のクラスター分子が一個の球として観察された。
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