本研究の目的は、リグニンの立体構造を明らかにし、次いでリグニン生成反応において立体選択性を支配する要因(支配因子)を明らかにすることである。β-O-4構造はリグニンの中で最も主要な結合様式であり、これまでにその側鎖立体構造(erythroとthreo体)を分析する手段としてオゾン分解法を改良し、この定量的扱いを可能にしてきた。 本研究では昨年度、β-O-4構造の側鎖立体構造(erythro/threo体)と、芳香核骨格構造(syringyl/guaiacyl核)が樹幹内、樹種間で異なる分布を有し、それらが相関を持つことをオゾン分解法とメトキシル基量の結果から示したが、今年度、さらにニトロベンゼン酸化法によって得られるシリンガアルデヒド/全アルデヒド量がerythro/(erythro+threo)と極めて高い相関(R^2=0.989)を示すことが明らかとなり、上記のsyringyl核の増加に伴いeryhtro体が増加していく傾向がより確かなものであることが示された。また本法によって生成するDivanillinの収量が樹種(針葉樹6種、広葉樹15種)によって大きく異なりVanillin収量と同様の傾向を示すことが同時に明らかとなったが、これがビフェニル型構造由来なのか反応中に生成した物なのかについては明らかでないため今後も引き続き検討していく。 また、オゾン分解法の反応条件の検討も併せて行った。本方法はリグニンの立体構造を明らかにしていく上で不可欠であると認識されつつあり、その目的分解生成物の収率はモデル化合物(β-O-4構造)で74%と比較的高い値を得ているが、さらなる収率の向上を目指し反応条件(反応溶媒と反応温度)の検討を行ったところ、溶媒組成(酢酸-メタノール-水)の違いによって木粉からの収率が大きく変化することが明らかとなった。
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