中性子星内殻底部並びに超新星コアといった部分では、スパゲッティのような円柱状やラザニアのような板状の原子核(nuclear"pasta")から成る相がエネルギー的に安定な状態として存在しうるという予測が提出されている。しかしながらこの予測は、大半が核の形状を仮定した計算結果に基づくものであった。このような状況の中、本研究は、量子分子動力学法(QMD)という核の形状を全く仮定しないような核子レベルの微視的かつ動的な枠組みによって、果たして"Nuclear Pasta"が動的な過程を通じて形成されうるのかということを解き明かし、もしそれ方形成されうるのであればその過程を理解し、加えて、有限温度下でのPasta相の状況をも解明することを目的としている。私は、本研究での知見によって、最終的には、中性子星内殻や超新星コアの内部についての現実的な描像を提示することを目指して、現在まで研究活動に励んできた。 本研究はQMDのシミュレーションコードの作成から始まったが、今年度の頭までには、主要となるコードを完成させることができ、それを用いた核物質の研究に着手していた。本年度の私の業績として最も特筆すべきことは、QMDによる核物質のシミュレーションを行うことで、一様な核物質から"Nuclear Pasta"が動的な過程を通じて発現しうることを他のグループに先駆けて示すことに成功した点であろう。動的な枠組みでの"Nuclear Pasta"の再現は、私の知る限り今回が初めてという意味においても、その意義は大きいと信ずる。なお、本研究の第一報であるPhysical Review C Rapid Communicationsの論文は、American Physical Society Media Relations-Physics Chips Sheetsにも取り上げられたことを付言しておく。 また、本研究では温度ゼロでの高密度物質の相図を構築した。そこではこれまでPasta相として考えられてきた棒状や板状とは全く異なる形状の核から成る相も現れているが、オイラー数というトポロジカルな量を用いて核物質の構造を定量的に解析することで、このような特異な形状も含めた核の構造の密度変化を、系統的に理解できることを示した。オイラー数という指標は、観測的宇宙論における大規模構造形成の研究等で用いられているものであるが、このような指標を用いて上記のような知見を得ることは、宇宙物理と核物理ひいては物質科学の境界領域に身をおく私だからこそ成し得たことではないかと考えている。
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