研究概要 |
本申請研究課題は単子葉植物であるテッポウユリの花粉を材料として、被子植物の生殖メカニズムを雄性配偶子形成から解明することを目的としたものである。今年度の研究成果として次のことが得られた。 1,被子植物雄性配偶子である、雄原細胞で発現が見いだされた色素体分裂リングタンパク質FtsZについて、同細胞における免疫学的な発現解析を行ったところ、色素体ゲノムが母性遺伝型である植物においてはその発現はほとんどなく、両性遺伝型の植物では色素体の分裂増殖に関与する顕著な発現が検出された。この結果から、被子植物母性遺伝メカニズムの分子生物学的解明へと研究の展開が期待された。また本実験で用いた抗FtsZ抗体は幅広い植物材料において応用が可能であり、タバコ培養細胞BY-2やコマツナのリーフディスクなどの培養植物細胞・組織での色素体増殖機構解析においても大いに貢献し、論文発表としての業績となった。 2,雄原細胞における強い発現が見いだされたボルボックスの配偶子形成因子GlsAについて分子生物学的・細胞生物学的解析を試みたところ、そのタンパク質発現は雄原細胞形成時期とほぼ一致しており、その細胞内局在は雄原細胞中で優位であることが分かった。また、共焦点レーザー走査型顕微鏡を用いた詳細な観察によって、微小管など細胞の形態形成にはたらく構造への関与が推察された。この研究成果は植物の生殖細胞形成メカニズムの普遍性を示唆する可能性を含んでおり、論文発表としての業績となった。 3,新たに見いだされた雄原細胞特異的膜タンパク質GCS1についてシロイヌナズナのミュータントを用いた機能解析を試みたところ、同植物では種子形成数が著しく少なく、野生株との掛け合わせ実験においてはミュータントの花粉経由では子孫へと変異が伝達しないことが示された。これらの結果からGCS1の雄性配偶子細胞における受精機能への関与が示唆された。
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