研究概要 |
脳機能を複雑かつ巨大な非線形ダイナミカルシステムと捕らえ、システム論的観点から脳の計算理論における安定性や妥当性を解析することを研究の主目的と位置づけて研究を遂行した。まずは脳の中でも特に運動制御機能を担っていると考えられている小脳に注目した。生理学の知見から小脳は階層的かつ機能分化しているという構造的特徴を持つことが示唆されており、との事実は計算理論においても同様な構造、つまり階層性や分散性を持つと推測され、このような立場から小脳の運動制御モデルとして「分散的運動制御アルゴリズム"Decentralized Motor Control"」を提案し,この結果を国際会議(International Joint Conference on Neural Networks 2003)で口頭発表した。 また、上記の研究と並行して関数微分方程式の安定性解析及び構造的可同定性に関する研究も行った。具体的には脳や遺伝子ネットワークなどの生物システムに不可避な時間遅れ要素をもつような非線形ネットワークシステムに対して、不確かさ要素が存在した場合のロバスト安定性、確率的要素や連続的な時間遅れが存在した場合の安定性を効率的に解析する手法を提案した。時間遅れを持つシステムは無限次元システムと同様の複雑なダイナミクスをもち、また実システムを数理モデル化した際に不確かさや確立的要素が常に内在するためその安定性を計算機で効率的に知ることは重要かつ最も基礎となるものである。一方で元のシステムは観測可能な入力-状態データから同定することが可能であるかを議論する可同定性問題や更にはグラフ理論を用いてグラフの構造としてシステムが構造的可同定性であるための条件を示した。遺伝子ネットワークの構造推定は遺伝子工学の中心的研究であるが、今までそもそも同定可能なシステムを扱っているのか研究されてこなかった。これらの結果は国際会議(Asian Control Conference 2004)での発表が決まっている。このような基礎的な研究は様々な分野への応用が可能であり、特に自己の研究の繋がりで言うと脳の高次機能や遺伝子ネットワークなどのより複雑な対象を研究する為の手法として有効である。
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