研究概要 |
tRNAのアンチコドン1字目(ウォブル位)における転写後修飾はコドンを認識する上で重要な過程である。ヒトミトコンドリア脳筋症MELAS・MERRFにおける点変異tRNA^<Leu(UUR)>、tRNA^<Lys>はウォブル位の修飾が欠損し、この修飾欠損によりコドン認識能に異常を生じることが発症の原因であると指摘されている。今回、我々はヒトとウシのミトコンドリアから、側鎖中にタウリン骨格を有する2種類の新規修飾塩基5-タウリノメチルウリジン・5-タウリノメチル-2-チオウリジンを発見し、構造決定に成功した。更に、これまで翻訳において5位と2位の修飾の各々の寄与の程度は明らかにされていなかったが、ウォブル位の修飾状態の異なるtRNA^<Lys>を用いてコドンとの結合力を解析する実験を行い、5-タウリノメチル基が単独でコドンとの結合を安定化する働きを持つことを明らかにした。引き続いてMELAS・MERRFにおける点変異が修飾の生合成を阻害していると考えられ、またタウリンは哺乳動物の組織やプラズマに高濃度に存在しているスルホン基を有するアミノ酸であることから、安定同位体標識タウリンを培養細胞に与えミトコンドリアtRNA中の5-タウリノメチル(-2-チオ)ウリジンの質量変化を追跡する実験を行い、修飾塩基の生合成過程で培地中のタウリンが側鎖構造中に取り込まれることを見出した、更に単離ミトコンドリアを用いたin vitro輸送実験により、タウリンが時間依存的にミトコンドリア内に蓄積することを明らかにした。今回の結果は、ヒトミトコンドリア脳筋症に関与する修飾塩基の構造と機能、形成過程を明らかにし、タウリンが生体高分子に取り込まれることを示す初めての例としてタウリンの生体内における機能と局在に関して新たな知見を与えるものである。(Suzuki, T. (2002) EMBO J., 21,6581-89)
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