ヒトミトコンドリア脳筋症(MELAS・MERRF)に関与していると考えられるヒトミトコンドリアtRNAのウォブル位修飾ウリジンである5-タウリノメチル(-2-チオ)ウリジンのタウリン構造中に、タウリン分子内の酸素原子が取り込まれることを既に見出している。更に窒素原子が安定同位体標識されたタウリンを培養細胞に与え、5-タウリノメチル(-2-チオ)ウリジンの質量をマススペクトロメトリーで追跡することで、窒素原子もタウリン構造中に取り込まれることを新たに見出した。これらの結果は、培地中のタウリンが5-タウリノメチル基の直接的な前駆体であることを強く示唆している。 また、酵母ではMSS1・MTO1遺伝子がミトコンドリアtRNAのウォブル位修飾ウリジシの5位の修飾の生合成に関与していると考えられており、ヒトでもそれらのホモログが5-タウリノメチル基の合成に関与していると推測されるが、MTO1遺伝子が生合成のどの段階に関与するかは不明であった。そこでMTO1遺伝子欠損株から単離した酵母ミトコンドリアtRNAの解析を行い、5位が未修飾であることを明らかにした。これはMSS1欠損株と同様の現象であり、従って、MSS1・MTO1両遺伝子が共に5位の生合成の初段階に関与することを示す結果である。同時に修飾ウリジン内の2-チオカルボニル基はこれらの遺伝子欠損の影響を受けないことも明らかにしており、5位と2位の修飾形成は独立に進行するという知見を得ることとなった。
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