本年度は以下のような研究活動を行なった。 1.ソヴィエト作家レオーノフの長編小説『泥棒』における諸テクスト間の異同を照合する作業を行なった。 2.『泥棒』のテクスト分析のために参照される、バフチンの文学理論の研究を行なったほか、さらにその著作を通じてヨーロッパ文化史についても視野を広げた。 3.同時代的なソヴィエト・ロシアの文化潮流について、特に演劇と映画についての研究を行なった結果、(1)平成14年7月の北海道大学スラブ研究センター「転換期ロシアの文芸における時空間意識の総合的研究」報告会での発表を基に、論文「ピョートル・フォメンコの作品世界の分析:『ある完全に幸せな村』を中心にして」を執筆した。これは、20世紀ロシア演劇の歴史を踏まえ、現代ロシアの演出家フォメンコの舞台作品に特徴的な演出手法を具体的に論じたものである。 (2)さらに、論文《Текст первоисточника в постановках Петра Фоменко(フォメンコの演出における原作テクスト)》においては、この演出家による、散文作品の舞台化の実態を分析することによって、ロシアにおける演劇と文学との関係を考察した。 (3)平成14年10月、日本ロシア文学会研究発表会において、報告「レオーノフ『泥棒』の構造と同時代の文化」を行った。ここでは、『泥棒』にみられるテクストの入れ子構造について、当時のソヴィエト・ロシアの映画と演劇分野における芸術理論を参照することによって論じた。 4.平成14年10月末から11月末まで、ロシアにて資料収集を行い、研究者との交流を行なった。
|