研究概要 |
ナメクジは単純な神経系を持ちながら高度な嗅覚-味覚連合学習を行う.この学習は単離脳でも再現可能である.この学習にはナメクジの二次嗅覚中枢であり,味覚からの入力も受ける前脳が関与していると考えられている.本研究では,前脳の匂い情報処理機構を明らかにするために,単離脳標本におけるパッチクランプ法を用いて前脳単一神経細胞から匂い応答の記録を行い,匂いにより誘発される膜電位変化の詳細な解析を行った.前脳には抑制性介在神経である少数のB細胞と触覚神経節細胞から直接の投射を受け出力も担う多数のNB細胞が存在する.記録は匂い情報を直接表現していると考えられるNB細胞から行った. 触覚の匂い刺激により,10%のNB細胞が興奮性のスパイク応答を示し,40%が抑制性のスパイク応答を示した.興奮性,抑制性の匂い応答の割合は匂いの種類にはよらなかった.応答の匂い選択性は細胞により異なっていた.これらの結果から前脳において,匂い情報が一部の細胞の興奮性・抑制性応答のパターンにより表現されていることが示唆された. 興奮性・抑制性の応答パターンを作り出すメカニズムを明らかにするために,匂い刺激に対するNB細胞のスパイク発火閾値以下の膜電位応答を解析した.周期的なIPSPにはさまれたプラトーフェーズの膜電位とスパイク発火数が相関していること、スパイク発火数は抑制性IPSPの頻度に影響を受けることが示された.このことから,NB細胞のスパイク発火は二つの異なるメカニズムにより制御されていることが示唆された. この研究結果をJournal of Neurobiologyに投稿した. 匂い学習において,これらの機構がどのように修飾を受けるのか,.また,高等哺乳動物の高次嗅覚中枢においても今回観察された結果はあてはまるのか,これらの問いに答えることが今後の課題であり,現在研究を行っている.
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