血管内皮細胞から産生されるNOは平滑筋細胞の増殖抑制作用を持つことから、NO産生障害が肺高血圧病態形成に大きく関与することが報告されている。昨年度は、肺動脈器官培養モデルを用いて、低酸素環境下に血管を暴露すると、内皮細胞の形態変化に伴って、NO合成酵素(eNOS)とその活性化に関わる細胞膜構造蛋白質の局在が変化し、NO産生能が低下することを明らかにした。本年度は、in vivoの系として低酸素誘発肺高血圧モデルラットを作成し、低酸素暴露による肺動脈内皮細胞のeNOS活性障害の分子機構をより詳細に検討し、以下の点を明らかにした。 1、1週間低酸素負荷したラットから摘出した肺動脈においても、内皮細胞の形態は変化し、NO産生量は減少していた。 2、eNOS活性はCa^<2+>-calmodulinにより制御されるが、同病態モデル肺動脈内皮細胞において、受容体刺激によるカルシウム流入機構の障害が観察された。 3、近年、eNOSの活性は、HSP90との結合、細胞膜構造蛋白質caveolin-1からの解離、さらにはAktなどのリン酸化酵素によるeNOS-Ser^<1177>のリン酸化などの複雑な制御を受けていることがin vitroの系で解明されてきた。肺高血圧モデルラット肺動脈内皮細胞において、eNOSの活性化を制御するこれらの機能蛋白質群(caveolin-1、calmodulin、HSP90)とeNOSの相互関係異常、さらにそれに続くeNOS活性のリン酸化制御系に異常が観察された。 本年度の研究成果から、eNOSとcaveolin-1などの蛋白質間相互作用とeNOSのリン酸化制御機構が、病態生理学的にもNO産生機構に重要な機能を果たしていることが初めて明らかされ、新しい治療戦略の基礎となる可能性が示唆された。
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