研究概要 |
本研究課題では,遷移金属と典型金属の複合触媒反応系として典型的な,d10遷移金属によるハロゲン化アリール・アルケニルと有機典型金属試薬によるクロスカップリング反応に焦点を当て,理論的及び実験的検討を行っている.本年度は,初年度及び次年度の基礎的な反応機構研究で得られた知見をもとに,クロスカップリング反応の合理的設計を目的として研究を行った. 反応機構研究で得られた基礎的知見とは次の通りである.従来,Cu(I),Ni(O),Pd(O)などのd10金属に対するハロゲン化アリール・アルケニルの酸化的付加は,金属が炭素ハロゲン結合に挿入する,「3中心型遷移状態」を経て進行するとされてきた.ここで筆者は,リチウム塩やマグネシウム塩などのルイス酸性を有する典型金属化合物が共存する場合,酸化的付加の反応経路としてd10遷移金属と典型金属ルイス酸が同時かつ協働的に関与する「脱離型遷移状態」が存在することを新たに発見した. 今年度は,上記の「遷移金属と典型金属による協働的なsp2炭素ハロゲン結合活性化」という新規概念をもとに反応設計開発を行った.ここで取り組んだのは,炭素フッ素結合の活性化を経る炭素炭素結合生成反応である.具体的には,ニッケル触媒による,活性化されていないフッ化アリールとグリニャール試薬のクロスカップリング反応の検討を行った.種々のホスフィン配位子の検討を行った結果,リン原子近傍にヒドロキシ基などのプロトン性基を有する配位子がフッ化アリールとアリールグリニャール試薬のクロスカップリング反応に高活性を示すことを見出した.本反応は特筆すべきことに,sp2炭素ヘテロ元素(酸素,硫黄)結合共存下において炭素フッ素結合活性化を選択的に起こすことが分かった.
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