これまでに、好熱性水素細菌Hydrogenobacter thermophilus TK-6株が嫌気鉄呼吸能を有し、呼吸鎖においてチトクロムc-552が鉄還元酵素として働いていることを示してきた。また、電子受容体である3価鉄を電気化学的に再生することにより、集積培養の10倍以上の高密度培養が可能である電気培養の開発に成功した。以下本年度の研究実績を報告する。 (1)TK-6株の嫌気鉄呼吸鎖の解明 TK-6株は嫌気鉄呼吸のほかに酸素呼吸によっても生育することが可能である。各呼吸時に発現するチトクロムをヘム分析により比較したところ、嫌気鉄呼吸時にはチトクロムc-552のみ発現するが、酸素呼吸時にはチトクロムc-552以外にチトクロムaも発現していることが明らかとなった。このことから呼吸鎖末端において異なる酵素が働いており、嫌気鉄呼吸鎖は酸素呼吸鎖よりも少ない因子で構成されていることが示唆された。 (2)電気培養を利用した鉄還元微生物のスクリーニング 電気培養を利用して自然界から鉄還元微生物を取得した。Proteobacteriaに属する6種類の新種の鉄還元細菌が培養された。このうち4種類はunculturebleとされていたものであり、電気培養法はそのような微生物の取得に有効であると考えた。さらに70-80℃、pH1.0において生育する鉄還元古細菌NA-1株を単離した。本菌は新属新種の古細菌であり、水素を有一電子供与体とし、3価鉄を電子受容体として絶対独立栄養的に生育する。 (3)好熱性・好酸性古細菌NA-1株の嫌気鉄呼吸鎖に関する生化学的研究 NA-1株の鉄呼吸鎖における鉄還元酵素を精製した。分子量65kDaのモノマーであり、スペクトル解析およびヘム解析から新規チトクロムであることが示唆された。さらにN末端アミノ酸20残基において相同性は見られなかった。今後は鉄還元遺伝子を解析する。
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