社会性昆虫の生態において最も重要な要素であるカースト分化は、生態学・進化生物学において非常に興味深い対象であるにもかかわらず、その機構に関してまだ未知の部分が多い。本研究ではシロアリの兵隊カーストについて分化時の形態の変化とその機構を形態学、組織学、分子生物学の手法を用いて多面的に解析した。まず形態の変化を詳細な形態計測と主成分分析により評価した。その結果、兵隊分化時に起こる形態の変化が客観的に整理され、特に大顎の伸長が最も顕著であること、大顎を部位毎に比較すると先端部の伸長が著しいこと、クチクラの肥厚は二度の脱皮を経て兵隊が成熟する課程で起こることなどが示された(Koshikawa et al.2002)。そのような形態の変化は擬職蟻から前兵隊、兵隊へと二度の脱皮を経て起こるが、内部では脱皮の前に組織形成が起こっており、脱皮後の急速な変化を可能にしている。本研究では幼若ホルモン類似体の投与によって擬職蟻から前兵隊への分化を誘導し、大顎内部の組織形成を観察することに成功した。前兵隊への脱皮は通常の脱皮と著しく異なり、古いクチクラの下に形成された新しい表皮は微細な折り畳み構造を形成し、そのパターンは脱皮後のアロメトリー変化とよく一致するものであった(Koshikawa et al.投稿中;三浦ら2002)。さらにそのような組織変化を引き起こす遺伝子の発現を検出するため、ディファレンシャルディスプレー法によるスクリーニングを行なった。その結果、多数の未知遺伝子と他生物で既知の遺伝子のホモログが得られ、それらの発現量などの解析を行なった。これらの研究成果は誌上発表のほか、国際社会性昆虫学会第14回大会および日本昆虫学会第62回大会で発表した。
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