社会性昆虫の生態において最も重要な要素であるカースト分化は、生態学・進化生物学において非常に興味深い対象であるにもかかわらず、その機構に関してまだ未知の部分が多い。本研究ではシロアリの兵隊カーストについて分化時の形態の変化とその機構を形態学、組織学、分子生物学の手法を用いて多面的に解析した。本年度は幼若ホルモン類似体の投与による兵隊分化誘導系を用いて、前兵隊への脱皮時に起こる組織の変化を通常の脱皮の場合と比較することによって明らかにした。前兵隊への脱皮は通常の脱皮と著しく異なり、古いクチクラの下に形成された新しい表皮は微細な折り畳み構造を形成し、そのパターンは脱皮後のアロメトリー変化とよく一致するものであった(Koshikawa et al. 2003)。さらにそのような組織変化を引き起こす遺伝子の発現を検出するため、ディファレンシャルディスプレー法によるスクリーニングを行なった。その結果、多数の未知遺伝子と他生物で既知の遺伝子のホモログが得られた。それらの遺伝子について、リアルタイムPCR法による発現量の定量、in situハイブリダイゼーションによる局在の解析を行なった。これらの研究成果は誌上発表のほか、日本学術振興会国際シンポジウム"The Expression Mechanism of Insect Functions"にて発表を行った。また、日本進化学会第5回大会で発表し、最優秀ポスター賞を受賞した。
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