研究概要 |
我々は"膵発癌および進展に伴う中心体異常発生メカニズム"について様々な角度から分子生物学的に検討し、以下の点を明らかにした。 1.膵癌における中心体異常の発生および形質維持には、細胞周期チェックポイントの破綻(特に、DNAメチル化異常による遺伝子発現消失)が関与している可能性が高いと考えられる。我々は、現在までに報告されているG2/M期チェックポイントをつかさどる遺伝子群の発現とDNAメチル化異常との関係について膵癌細胞を用いて調べた。この結果、14-3-3 sigmaは膵癌においてはむしろ過剰発現していることが明らかになり、中心体異常に関与する可能性は低いと考えられた。G2/M期チェックポイント遺伝子のひとつreprimoは、膵癌において高率(80%以上)にメチル化していることが明らかになった。現在small-interfering RNA (siRNA)を用い、reprimoの中心体過剰複製に及ぼす機能的役割を調べている(Sato et al.,論文投稿中)。さらにM期チェックポイントのMAD2の異常メチル化はみられなかったが、有糸分裂チェックポイント遺伝子CHFRは膵癌において約10%の頻度でメチレーションの異常を認めた(Sato et al.,論文投稿中)。 2.我々は、放射線療法と中心体過剰複製との関係について検討中、放射線照射が癌周囲の間質細胞(線維芽細胞)に及ぼす影響について全く新しい知見を得た。つまり、癌細胞のみならず、線維芽細胞への放射線照射は癌・間質相互作用を介して癌の浸潤能を高めるということを発見した(Ohuchida, et al. Cancer Res., 2004)。 3.現在までの研究成果をWILEY-VCH社から刊行された図書"Centrosomes in Development and Disease" (Prof. Erich A. Nigg (Max-Planck Institute for Biochemistry, Germany)監修、2004年刊)に、"Radiation therapy and centrosome anomalies in pancreatic cancer (chapter 17)"(膵癌における放射線療法と中心体異常との関係)と題する論文を掲載した。
|