シロイヌナズナで見つかっている病原体認識遺伝子、R遺伝子は、LRRと呼ばれるシグナル伝達に関わると思われる領域を持ち、バクテリアの持つAvr遺伝子の産物を特異的に認識して免疫反応を引き起こす。しかしながら、R遺伝子、Avr遺伝子の分子進化上の対応関係については未だ明らかにされていない。本研究は、シロイヌナズナのR遺伝子の一つ、RPS5の種内変異を解析すると共に、自然界における主要な病原体と思われるPseudomonas viridiflavaのAvr遺伝子を同定し、種内変異を基にR遺伝子との共進化のパターンについて解析を行うことにより、植物の抵抗性遺伝子とバクテリアの抗原遺伝子の間の相互作用、植物の免疫システムの獲得プロセスを解明することを目的としている。 本年度は、昨年度より研究代表者が共同研究者であるシカゴ大学生態進化学講座のメンバーと共に携わってきたRPS5の種内変異の解析を行い、この遺伝子が、これまで一般に受け入れられていた「軍拡競争仮説」の予測に反して分子進化上、長期にわたって「病原体抵抗性・非抵抗性」の種内多型を選択的に維持していることを示した。また、自家受精型であるこのシロイヌナズナにおいて、上記の遺伝子で選択的種内多型を維持したことがゲノム上の隣接する遺伝子に与える影響を、周辺部位のDNA多型から推定したところ、その影響の範囲がおよそ10KB以内であったことも示した。さらに、バクテリアの一種、Pseudomonas viridiflava及びPseudomonas syringaeがシロイヌナズナに寄生する天然の寄生バクテリアであることを示すに当たって、寄生に不可欠なプロセスに関与する複数の遺伝子がこれらのバクテリアに存在することを示した.。
|