「精神分裂病者の情動表出と情動体験に関する研究(心理臨床学研究掲載、2002)」では、健常者(以下NOR)との比較から、精神分裂病者(以下SC)の情動表出は常に乏しくはなく、特定の刺激に対して楽しさを感じ、この刺激に対してNORと表出が変わらないことが示された。 今年度は、NORのこれらの情緒刺激に対する情動体験を検討するため、120名の大学生を対象にVTR刺激に対する認知を測定した(「VTR視聴場面における統合失調症者と対象者の情動体験の比較」第67回日本心理学会、2003年発表予定)。その結果、NORとSCの情動体験に違いはみられなかった。 次に、SCの情動平板化の程度からみた情動表出・体験について、VTR視聴場面による検討を行なった(「統合失調者の情動平板化が情動表出と情動体験に与える影響」心理学研究、投稿中)。結果より、情動表出にのみ情動平板化の程度が影響し、情動平板化軽度群は重度群よりも「興味」の表出が多かった。これより、情動平板化の違いは、表情筋の動きの差ではなく、事象に対する興味・関心のあり方の違いにあると考えられた。 さらに本年度は、臨床場面(対人場面)でのSCの情動表出を検討するため、精神科入院中のSCの方達を対象に、集団心理療法である心理劇を行なうグループを形成する取り組みに力をいれた。これらの活動は、同意の元、VTRにて活動を記録・分析している。この場面を通して、SCが他者とのコミュニケーションを円滑に行いやすくなる関わりや場のあり方について検討する。本年は、評価表の作成を試みた(「個人評価を用いての試み〜より治療的な関わりを目指して〜」西日本心理劇学会発表、2003、2月16日)。また、入院中ではない、デイケア通院中の方を対象としたグループ活動も開始している。平成15年度は、これらのグループを継続し、他者の関わりにおけるSCの情動表出と情動体験のあり方、SCの会話における情動調節のあり方について検討を行なう。
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