理論研究にかんしては、アメリカ・ナショナリズムとネイティヴィズムとの関係性を、より多角的に論じるためには、アメリカにおけるエスニシティ研究の成果を取り入れる必要があると判断した。そこで先行研究を分析した結果、特にGeorge J.Sanchezの研究が有用であることが判明した。Sanchezは、20世紀末におけるネイティヴィズム台頭の意味を、歴史研究をふまえながら論究しており、結論として、現代アメリカ・ネイティヴィズムの基底をなしているのは、「白か黒かの二分法」であると主張している。Sanchezのこうした見解は、近年研究がさかんな「白人性研究」(Whiteness studies)の流れをふまえている。そこで、さらに研究の射程をひろげるため、Ghassan HageやGeorge Lipsitzらをはじめ、「白人性」にかんする代表的先行研究の分析をおこなった。なかでも、「多文化主義」にかんするHageの分析は、特に示唆的であった。Hageによれば、「多文化主義」の寛容の論理は、排外主義と同じ構造をはらんでおり、両者とも、既存の支配体制への支持を、統合/排斥の客体となる人々に強制するものである。排除と統合に関するHageやSanchezの指摘は、アメリカ・ナショナリズムとネイティヴィズムとの関係を理論的に位置づけるうえで、非常に有用であった。以上研究成果は、論文「ネイティヴィズムにみる『国民統合』の論理」としてまとめ、現在、公表に向けて準備中である。 歴史研究にかんしては、本年度は、ネイティヴィズム台頭の時代背景についての知見を深めるため、代表的ネイティヴィストLyman Beecherの宗教活動・道徳向上活動に、研究の焦点をさだめた。ネイティヴィズム運動の主題のひとつが、移民労働者の「アメリカ化」であったという指摘は、いくつかの先行研究においてすでになされているが、この主題が具体的にはどのように論じられていたのかという点について、一次史料にもとづいた十分な実証はなされていないようにおもわれたからである。Beecherの携わっていた社会活動や著作を考察した結果、彼は、移民だけでなくアメリカ人全員を対象とする道徳教育を提言しており、とりわけ、歴史教育によるアメリカ的価値の共有を、最重要視していることが明らかになった。
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