本研究は、食品成分が有するアレルギー症状の軽減化およびその予防効果に及ぼす影響を多面的に把握するため、アレルギーの発症に関与するヒト好塩基球における食品成分の結合性と抗アレルギー活性との関連性ならびに作用機構の解析を目的としている。 これまで、ヒト好塩基球様細胞株KU812を用いて、高親和性IgE受容体(FcεRI)発現の抑制を抗アレルギー活性の指標として、緑茶中の主要カテキンであるエピガロカテキンガレート(EGCG)にFcεRI発現の抑制活性があることを見出してきたが、今回、さらにその詳細な作用機構について検討を行った。 EGCGは標的細胞表面へ結合することから、近年、種々の細胞におけるシグナル伝達や膜輸送に中心的役割を担うことが明らかにされている細胞膜マイクロドメイン"ラフト"との関連について検討を行った。その結果、細胞に結合したEGCGは細胞膜上のラフトに高レベルで存在し、さらに、ラフトにおけるEGCGレベルの低下はFcεRI発現抑制効果の低下につながり、ラフトがEGCGのFcεRI発現抑制シグナルを伝達する場として重要な役割を果たすことが示唆された。現在、ラフトは、ガン、アルツハイマー、エイズなど様々な疾患の細胞膜標的ドメインとして、非常に注目を集めており、一方、EGCGもこれら疾患に対して改善効果を発揮する可能性が指摘されていたことから、本結果が、未だ不明な点が多いEGCGの様々な生理活性を紐解く大きな一石となることが期待される。 上述のように、EGCGのシグナルを細胞内へ伝達する細胞表面ドメインとしてラフトが重要な役割を担うことを明らかにしてきたが、さらに、このラフトからのFcεRI発現抑制シグナルを伝達する細胞内シグナル分子として、Extracellular signal-regulated kinase 1/2(ERK1/2)を見出した。 以上の結果は、EGCGの細胞内シグナル経路をプロファイリングするため、あるいは他の食品成分との複合作用を理解するための貴重な情報を提起するものと考えている。
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