1、今年度の本研究は、まず昨年度までの『金色夜叉』の原典研究を、尾崎紅葉周辺の硯友社の文学昨品に拡げるかたちで進めた。そして内田魯庵が自著『楼上雑話』で引用した、「明冶の日本文壇の翻案及ひcopyrightの管理」について言及された数少ない外国人評として紹介した米国人、Harold Bolceの著作確認のため、同書を所蔵する大阪府立中央図書館に赴き、魯庵の引用箇所と比較検証した。また、紅葉に続いて、英国や米国の女性読者を対象とする廉価多売のcheap editionsを翻訳・翻案し、ベストセラーとした江見水蔭の同時代の私見を確認するため、その私文書を所蔵する吉備路文学館、『金色夜叉』資料確認に塩原もの語り館に赴いた。 2、平成15年10月に開催された、日本アメリカ文学界全国大会(於名古屋、椙山女学園大学)シンポジウムにパネリストとして参加した。テーマを「ロマンスの復権」として、米・英・日の文学界における恋愛小説の、現代までの、いわゆる「純文学」ではない「読み捨て本」と位置付けられてきた受容を報告し、そこに文学として再考すべき重要な問題が残されている、三国共通の課題に焦点をあてて考えた。また、この問題に関係し、日本近代の文学界独自に生じる、洋書の翻訳・翻案過程における著作権問題について、同年11月の日本出版学会歴史部会(於・日本エデイタースクール)において、「日本近代文学に於ける著作権問題について」というテーマで、著作権条約にふれて報告した。
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