亜鉛ポルフィリンをコアに持つフェニルアゾメチンデンドリマーに関して、次の三点に関して重点的に研究を行った。 1.デンドリマー外部への電子移動 デンドリマーの外部に対する分子間電子移動を、電子アクセプターのキノンを用いてナノ秒〜ミリ秒の過渡吸収スペクトルにより調べた。その結果、外部からデンドリマー内部への電子移動に比べてコアから外部への電子移動はシェル効果による電子移動の抑制が小さく、フェニルアゾメチンデンドリマーが電子移動の方向制御機能を有していることが分かった。これは樹状骨格のπ軌道を介した電子移動が電子勾配の方向によって影響を受けていることを示している。また、この特性を利用して、電荷分離によって生じたフリーラジカルイオンが高効率かつ数ミリ秒におよぶ長寿命で存在出来る事を確かめた。 2.金属集積分子内における超高速電子移動の解明 塩化鉄(III)を集積したデンドリマー錯体内部における電子移動をピコ秒オーダーの過渡吸収スペクトルを測定することにより調べた。これによりコアの光励起に伴い数psの時間で励起電子が金属集積体全体に拡散していく様子が観測できた。一方、基底状態に戻る逆電子移動も数十〜百ps程度で進行するので、金属集積体が複数の電子をコアに高速で送り込む電子担体として働く多電子触媒機能につながると考えられる。 3.金属集積によるコアの電子状態スイッチ CVを用いて、コアのHOMO準位が金属集積によってどのように影響を受けるか、定量的に調べた。塩化鉄(III)を配位させると、そのルイス酸性によりコアの電子が吸引され、酸化還元電位は高電位シフトすることが明らかとなった。このとき、デンドロン置換基はコアに対して、金属集積前は電子供与基として働いていたのが、金属集積後に電子吸引基に逆転する。この新原理を応用して、外部刺激に応答する新しい電子物性スイッチングが可能になると期待される。
|