β-Mnは、従来、交換増強されたパウリ常磁性体とみなされていたが、近年はフラストレートした結晶構造がβ-Mnの磁性に多大な影響を与えている可能性が指摘され、遍歴電子3次元フラストレート系の代表的な磁性体として盛んに研究が行なわれている。β-Mnが有する結晶学的に異なる2つのMnサイトのうち、磁性を主に荷うMnサイトIIを他元素で置換されたβ-Mn合金では、スピングラスと類似した磁性を示すことが報告されている一方で、MnサイトIを置換されたβ-Mn合金では、弱い遍歴電子反強磁性と見なされているが、我々の研究室において初めて相の存在が明らかにされたβ-MnOs合金は、比熱および熱膨張等のマクロ的な測定より、弱い反強磁性から強い反強磁性までOs濃度の増加に伴い連続的に変化することが明らかになっている。 MnサイトI、II両置換系の磁性の差違はマクロ的な測定では決定付けるには至っていないため、今年度はサイトI置換系であるβ-MnOs合金のミクロ的な測定である^<55>MnでのNQR/NMRおよび少量の^<57>Feを添加したβ-MnOsFe合金でのメスバウアー効果測定を行い、遍歴電子磁性の観点から議論を行なった。NQR測定より、サイトIIの内部磁場はOs濃度の増加に伴い連続的に増加し、メスバウアー効果においてもOs高濃度組成になるにつれて、顕著な内部磁場の増加が観測され、両測定結果は良い対応を示した。サイトII置換系においては、置換元素濃度の増加に伴い、内部磁場の大きさは飽和する傾向を示すことから、サイトI置換系は遍歴電子反強磁性的な組成依存性を示していると言える。また、Os濃度の増加に伴いサイトIIの内部磁場は増加する一方で、サイトIはほとんど組成依存性を示さないことから、Os高濃度組成になるにつれて、サイトIIが磁気的寄与の大部分を荷うことが明らかになった。 以上の結果は、日本物理学会および雑誌論文において発表された。
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