研究課題である「中国における言論の自由をめぐる法思想、法理論および法制度」について多角的に研究を進めた。 平成14年度上半期においては、研究は資料収集を中心としたものであった。すなわち、言論の自由をめぐる法思想については、近代以降の中国憲政史の文献を、言論の自由をめぐる法理論については、中国法学界の関連学術論文を、言論の自由をめぐる法制度については、関連の法律法規を、それぞれ資料として可能な限り収集し、それらの整理・分析につとめた。また、日本国内において、精力的に中国・アジア地域研究、比較法(中国法、アジア法、社会主義法)研究に関連する研究会やシンポジウムに参加し、中国研究者や憲法研究者を中心に、積極的に意見交換を図り、有益な資料の提示・提供を受けた。 平成14年9月には、約二週間の日程で、中国の北京・長春を訪問した。その訪中において、文献資料の入手につとめただけでなく、現地の研究教育機関(吉林大学(長春)、東北師範大学(長春)、国家行政学院(北京))の法学者と交流した。彼らは大学教授であるだけでなく、長春市政府法律顧問や安徽省情報公開委員会委員等も兼任しており、彼らとの研究交流は、中国における言論の自由を解明する一環として中国の情報公開の実情調査を検討している私にとってきわめて有益であった。 平成14年度下半期においては、平成14年度上半期および中国訪問時期に収集した資料を利用して「国際人権条約への中国的対応」という表題で小論を作成した。中国政府の国際人権規約締約をめぐる法的諸問題は、中国憲法学界における最大の関心事といっても過言ではなく、中国における言論の自由の今後を展望する上でこの問題の検討は不可欠である。この小論は、2003年夏に刊行予定の西村幸次郎編著『グローバル化のなかの現代中国法』(成文堂)に第2章として所収される予定であるが、おそらく日本におけるこの分野についての初めての研究成果となろう。
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