前年度より引き続き、研究課題である「中国における言論の自由をめぐる法思想、法理論および法制度」について多角的に研究を進めた。 平成15年度上半期においては、前年度より執筆中の小論「国際人権条約への中国的対応」を完成させた。同小論では、中国の国際人権条約に対する評価、中国の国際人権規約締結過程・国際人権規約と中国国内法の関係をめぐる中国法学界の議論の検討を通じて、中国の国際人権規約締結が、中国における国権と人権、国家と個人の相剋にどのような影響を与えるのかを展望している。同小論は、平成15年10月に刊行された西村幸次郎編著『グローバル化のなかの現代中国法』(成文堂)に第1章として所収されている。 平成15年9月には、約10日間の日程で、アメリカ・ニューヨークを訪問した。その訪米において、文献資料の入手につとめただけでなく、在米中国人研究者を訪ね、インタビューを実施し、有益な資料の提示・提供を受けた。 平成15年度の下半期においては、これまでの研究の蓄積を、『中国における言論の自由-その法思想、法理論および法制度-』という表題で、不十分ながら一冊の著書としてまとめた(平成16年1月に明石書店から刊行)。同小書は、中国における言論の自由を研究するということ、言論の自由の特質と「憲法的伝統」、民主化要求と「中国的人権観」、言論・表現の自由関連立法の構造とその問題点、言論の自由の位置づけをめぐる中国法学界の今日的議論、「反革命罪」の名称変更と言論の自由、現代中国法における「四つの基本原則」と思想・言論の自由、「中国的」言論の自由の「普遍性」と「特殊性」から構成され、これまで国内外において収集した文献資料、および前年度の訪中と本年度の訪米において実施した関連の研究者に対するインタビューの成果を十分に盛り込んだ内容となっている。
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