平成14年度、平成15年度より引き続き、研究課題である「中国における言論の自由をめぐる法思想、法理論および法制度」について多角的に研究を進めた。 2004年3月に中国憲法の部分改正が行われ、中国憲法に「国家は、人権を尊重し保障する」という条項が新設された。そこで、平成16年度は、この憲法部分改正における「人権」条項の新設に着目し、それが中国における人権・言論の自由の概念の理解および保障の実際にどのような影響を与えるのかについて分析・検討することを試みた。日本国内においては、精力的に中国・アジア地域研究、比較法(中国法、アジア法、社会主義法)研究に関連する研究会やシンポジウムに参加し、中国研究者や憲法研究者を中心に、積極的に意見交換を図り、有益な資料の提示・提供を受けた。また、2004年8月に約二週間の日程で北京・長春を、2004年12月に約一週間の日程で蘇州をそれぞれ訪問した。それら訪中において、文献資料の入手につとめただけでなく、現地の研究教育機関(汕頭大学、吉林大学、東北師範大学、蘇州大学等)の法学者と交流し、中国憲法の部分改正、とりわけ「人権」条項の新設に関連する問題についてインタビューを実施した。 平成16年度下半期においては、それら中国の法学者との研究交流の成果を発信することにつとめた。平成16年10月に開催された日本現代中国学会全国学術大会では、自由論題のコメンテーターを務め、中国の憲法部分改正の状況を紹介した。また、平成17年1月に刊行された西村幸次郎編著『現代中国法講義(第2版)』(法律文化社)の「第2章:人権法」を執筆・改訂するにあたっては、「人権」条項の新設の意義と問題性について大幅な加筆を施した。さらに、現在、「人権」条項の新設について、言論の自由の保障との関連でより深い検討を試みるべく、「「人権」条項の新設をめぐる同床異夢」という表題で小論を執筆中である。
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