本年度は、次の2点の作業をおこなった。第一は、植民地下朝鮮における朝鮮語規範化政策・運動の性格を朝鮮総督府における教育政策との関連で意味づける作業である。2004年5月、10月、12月、2005年2月の4回にわたって大韓民国における史料・関連文献調査(大韓民国立国会図書館、同国立中央図書館、ソウル大学校附属図書館)をおこない、2004年7月には、朝鮮史研究会関東部会月例会において、「植民地下朝鮮における朝鮮語『近代化』運動の性格に関する一試論」と題して、関連内容の報告をおこなった。この結果、植民地期の朝鮮語規範化政策・運動は、支配権力と朝鮮知識人の民族運動との相互規定的関係性において成立し、従来の「支配-抵抗」という二元論的な図式ではなく、近年の「植民地近代性(colonial modernity)」論で言及されるような「文化的ヘゲモニー(cultural hegemony)」としてとらえることが有用であることを実証した。この成果は、「植民地期朝鮮における言語運動の展開と性格」にまとめた。 第二の課題として、朝鮮語規範化の背景にある言語思想の問題に取り組んだ。日本の朝鮮侵略と結合したイデオロギーとして従来批判の対象となってきた「日鮮同祖論」の性格について、同時代の近代日本アカデミズムの文脈と日本社会における思想的基盤との関係でとらえなおし、「日鮮同祖論」は、支配イデオロギーとしての機能を持ちつつも、天皇制との関係で緊張関係をはらみ続けたことを論証した。その成果は、「『日鮮同祖論』の学問的基盤に関する試論」、「近代アカデミズム史学のなかの『日鮮同祖論』」の二論文にまとめた。また、これまで十分に取り上げられてこなかった「日鮮同祖論」者金沢庄三郎の著作目録を編集し、金沢研究の今後の課題について言及することで、近代日本言語学のなかで「日鮮同祖論」問題を位置づける試みも始めた。
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