本研究は歴史・社会学的な手法を用いて、テレフォン・オペレーター職(戦前と戦後の一時期は電話交換手を、現在は主にテレワーカーやテレコミュニケーターと呼ばれる職種を指す)の生成過程とその現状をめぐる日独比較を試みるものであり、歴史分析編と現状分析編の二部から構成される。ジェンダー化(特定の性別と関連する意味が付与されること)された職種として出発したテレフォン・オペレーターの現状を探り、その変動の兆しや変化を阻む要因を分析することが本研究の主旨である。本年度の実績は、技術革新や逓信省内部の職員間(電信技手との)のポリティクスとの関係から、電話交換業務がいかなる経済・政治的過程をたどってジェンダー化され、さらにそれが、現場で働く電話交換手と電信技手に、いかなる回路を通じて維持・強化されることになったのかを史料調査・分析した。特に男女吏員の組織化や社会政策に着目し、研究指導者の委託先にあたるドイツのベルリン及びミュンヘンの文書館に所蔵される一次史料を入念に検討した。この文書館は日本で入手不可能な、戦前のドイツ逓信省の公文書、電話交換手や電信技手を含む郵便・電信職員の人事記録(2090件)が保存・公開されている。またドイツ国内の図書館で、郵便・電信吏員組織の発行した機関誌や、ドイツ各地の郵政局が刊行した史料も調査し、上記の史料と併せて分類・整理・翻訳作業を進めた。さらに、組織管理や職務内容に着目し、社史(電電公社・NTTやドイツテレコム)を検討する他、ベルリンにある逓信博物館に赴いて、近年ドイツで発表された当該テーマの二次文献の調査を進めた。
|