研究概要 |
本研究における解析の対象として,環境負荷や火災事故など低減のための次世代技術として必要とされている水潤滑環境下でのトライボロジー特性を取り上げて実験・解析を進めてきた. 実験方法は,全国5箇所より集められた水道水と純水の計6種類の作動水中におけるSUS304材とAl_2O_3またはSi_3N_4による摩擦摩耗試験である.この実験では,摩擦係数と摩耗量に加えて,SUS304試験片の自然電位を3電極式の電気化学的測定によってIn-situで測定した. 作動水分析を行った結果,水道水の種類によって電気伝導率や溶存イオン量が異なり,摩擦時の試験荷重が比較的小さい場合は電気化学的溶出が支配的であるため電気伝導率が高いほど摩耗が大きく,試験荷重が大きくなると反対に保護膜が生成されにくい電気伝導率が低い作動水中で大きな摩耗を生じた.このことは,電気伝導率が比較的高い作動水中では高荷重域でも摩擦係数が安定していることや,摩耗面のSEMやEPMA観察によって裏付けられた. このようなトライボロジー現象をモデル化するため,確率過程モデルの非因果的二次元自己回帰モデルを用いて接触状態に対する三次元表面形状の影響を考察した.このモデルにおいて,表面形状の長周期成分と短周期成分の混合度を示す相関パワー係数というパラメータを世界ではじめて提案した.このシミュレーションによって,任意荷重における接触部分布,局部的な接触圧力などの推定が可能となり,提案した相関パワー係数の重要性が明らかとなった. 以上の結果,逆問題の課題として取り上げた水環境中のトライボロジー現象では,摩擦材料や荷重だけでなく,反応膜の生成に影響を及ぼす水の電気伝導率,反応膜の物理的強度,接触面形状によって変動する局部接触圧力などをパラメータとして考慮する必要があることが明らかとなった.それらを考慮した逆問題としての数式化が次年度の課題である.
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