研究概要 |
アブラナ科自家不和合性研究において花粉または花粉管の伸長停止という現象が、どのような機構により制御されるかを調べるために、アブラナ科の自家不和合性機構を現在モデル植物として多くの情報が集積されているシロイヌナズナへ導入することを試みた。その結果、不和合反応らしい花粉管の進入停止が見られたものの、その形質は不安定なものであり、その後の解析に耐えられるような安定的な不和合反応個体を得ることはできなかった。これは導入した遺伝子の由来であるB. rapaとシロイヌナズナ種間での遺伝子相同性の違いにより、何らかの問題が発生したものと考えられる。 次に、花粉側S因子SP11を柱頭上で強発現するpromoter SLGproで制御することによって恒常的に不和合反応を示す個体の作出を試みた。その結果としては、期待していた表現型を示す個体を得ることはできなかったが、新たな知見として次のような現象を見いだした。B. rapaの形質転換に使われるS52,S60の両ハプロタイプを柱頭親に使用し、花粉親にトルコ系統由来の個体を使用した時のみで、自家不和合性反応時と同様な不和合反応をする組み合わせが存在していた。この組み合わせで、雌雄を逆にした場合には問題なく花粉管の柱頭への進入を確認している。このような1方向のみで起こる不和合性は、種間交配時などでまれにみられる現象であり、一側性不和合性と呼ばれている。しかし今回の場合は同種間でこの一側性不和合性が起こるという、新規な現象であった。 また、DNAゲルブロットとRNAゲルブロット分析により、通常S遺伝子座に強く連鎖しているはずのSLG遺伝子がゲノム中に存在しない系統として、S32,S33,S36という3系統を見いだした。これらの系統は、柱頭上で非常に強く発現するSLGが存在しないことにより、柱頭側因子SRKとSP11との認識反応を調査する上で役に立つだけでなく、柱頭上で起こる不和合反応を大規模に解析する際にも非常に有用だと考えられる。
|