本研究の目的は、ストレス耐性の強いオオハマニンニクを用いてその変異をコムギに導入することが目的である。これまでに、オオハマニンニクJ染色体には赤さび病抵抗性、高製パン性形質等が座上することを見いだしている(学会誌に発表)。本年度は、これら形質の染色体上位置の決定を行なうためのJ染色体転座コムギ系統を多数育成することを目的とした。 (1)放射線によるオオハマニンニクJ染色体転座コムギ系統の育成 J染色体の転座を誘発するため、J染色体ダイソミック添加コムギ系統の種子へX線および重粒子線照射を行なった。X線では300-500Gy、重粒子線で50-75Gyでそれぞれ500粒の種子に照射を行ない、転座系統を選抜したところ、X線によるものが10系統、重粒子線によるものが12系統それぞれ得られた。しかし、照射種子数に対して転座系統が得られる確率は約2%と低くかった。 (2)相同染色体対合を利用した物理地図の作成 物理地図の作成には多くの転座系統が必要であるので、放射線に代わるより良い方法が必要と思われた。そこで、相同染色体対合を利用することを考えた。オオハマニンニクの近縁種にハマニンニクという種があるが、両種の染色体対合を調査したところ両種染色体は対合することが確認できた。また、両種染色体はゲノミックin situ hybridizationにより視覚的に区別できることもみいだした(学会誌に発表)。これらのことは、両種染色体を用いると、両染色体の物理的な組換え位置を可視化でき、染色体物理地図作成が可能であることを示している。そこでハマニンニク染色体添加コムギ系統を育成し、ついでオオハマニンニクJ染色体添加コムギ系統とハマニンニク染色体添加コムギ系統を交雑し、両種染色体が一本ずつ加わったコムギ個体を育成した。今後この後代より、オオハマニンニクJ染色体の組換え個体を多数獲得できると思われる。
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