現在、有機分子素子の研究がさかんに行われている。我々は有機分子、特に分子素子動作の可能な導電性分子を自己組織化法で吸着させた分子メモリーや電界効果トランジスター(FET)などの分子素子の開発を目的として研究を行っている。 自己組織化膜(SAM)はプローブ型分子メモリーの下地としての応用も期待されていることから、SAMの摩擦特性や耐久性について調べる必要がある。我々は、Au上のSAMの摩擦特性をピン・オン・プレート法で調べた。その結果、オクタデカンチオール(ODT) SAMが10時間以上の摩擦に対しても、高い耐久性を持つことがわかった。さらに、ODT単分子膜の摩擦係数が約0.2であるのに対し、二種の有機硫黄化合物を用いた二層構造分子膜の作成により、摩擦係数の0.1-0.15へとの低減化に成功した。 次に、有機分子素子への取り組みとしてナノFETの開発を行った。これまでの他者の研究からナノ電極間距離が数nm以下と短い場合には、分子の挟み込みができても大きな電界効果を望めない。そこで、我々は、大きな電界効果を得るために電極間を10-20nmに広げて、金属イオン・絶縁性分子超格子構造の自己組織化分子膜を用いて、FETの作製・評価を行った。その結果、金属イオン・絶縁性分子超格子膜を挟み込んだナノFETにおいてクーロン振動が観察され、単一電子トンネル素子として働いていることを室温で確認した。しかし現在用いているシリコン酸化膜が400nmと厚いため、電界に対する電流の応答性が悪い。今後は、電流の応答性の改善を目指し、より薄い絶縁膜としてシリコンオキシナイトライド膜(東北大寒川研から極薄の膜を入手予定)を用いて素子特性向上について検討する。特にシリコンオキシナイトライド膜の厚さの最適化、およびナノ電極の寸法の最適化と分子の構造の相関性についての検討を行い、FET性能の向上を目指す予定である。
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