平成15年度においては主に薩南海域から道東沖にかけての広範囲にかけて出現するデメエソの仔稚魚について調査を行った。その結果、本種は脊椎骨数が多く本邦産同属他種と識別可能、変態期は体長約9cmであることが判明した。分布特性については水深0-500m層で、前屈曲期から屈曲期にかけての小型仔魚が黒潮域に出現し、後屈曲期から変態期にかけては移行域から親潮域に出現した。また採集時期については冬期の黒潮域に小型仔魚が多く、移行域では個体数密度が春期にピークを向かえていた。これまでデメエソの成魚は主に移行域から親潮域が主な分布域とされていたため、典型的な亜寒帯種の仔魚が黒潮域で採集されることは魚類の生態的知見の中でも極めて興味深い事例である。これは冬に黒潮上流域で産卵された卵が孵化し、海流の北上によって仔魚は成長しながら輸送され、春に移行域へ達すると推測される。この時期の移行域は植物プランクトンのブルームが発生し、餌料となる動物プランクトンも豊富になると考えられる。本種は体長約4cmで稚魚となり、変態期を経て成魚になるまでには主に移行域から親潮域で成長し、成熟個体は産卵のために黒潮上流域へ産卵回遊を行うと推測された。このような生活史を送る魚類は水産上重要魚種とされるサンマ、マイワシが挙げられる。ただしこれらの魚類は表層から亜表層を生息域としている種であり、デメエソは成魚が500-1000mに分布する中深層性魚類である。このことから生息層が異なる様々な魚類にとって、本州東方沖の移行域は仔稚魚の餌場として大変重要であることが明らかになった。
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